こんな親はもう嫌だ
こんな子供は勘当だ
と親子の縁を切りたいと思うことは意外に多いようです。
借金癖があったり女癖の悪い親だったり、金の無心ばかりする子供だったり、縁を切ってしまいたいと思うのも無理はないでしょう
しかし、実の親子関係を絶縁してしまうことは原則としてできません。
できないといわれるとがっかりされるかもしれませんが、親子の絶縁をすることはできなくても、少なくとも迷惑が及ばないようにすることはできます。
ここでは、親子の絶縁と、いざというときの対策を説明します。
この記事の内容
親子間の法的な切っても切れない関係
縁を切りたいと思うような親子関係でも、お互いに関わらなければ済むのであれば何も問題なさそうです。しかし、法律的には親子間に義務が発生することもあり、絶縁したくても切っても切れない関係があります。
- 扶養義務
- 未成年者に対する親権
- 相続関係
扶養義務
親子間には、お互いに扶養する義務があります。民法に「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定められているのです。
そうはいっても、縁を切りたいと思うほどの親子関係で、お互いに扶養するということは実際にはないでしょう。また、扶養義務があるといっても、自分の生活が最優先ですので、余裕がない場合にまで生活の面倒をみなければならないというものではありません。
扶養義務が問題になるのは、生活保護の申請をしたときです。生活保護の申請があると、扶養義務者に「扶養照会」といって、いくらかでも生活の援助ができないかという問い合わせが役所から送られることがあります。
生活保護の扶養照会にも「できない」と答えればそれ以上扶養義務を求められることはありません。
絶縁状態の親族にまで扶養照会がされることを嫌がって、生活保護の申請を躊躇するということもあったため、最近では事情によっては扶養照会は行われないこともあるようです。
未成年者に対する親権
子供が未成年者のときは、親は親権者として、子の利益のために子に対する身分上・財産上の監督保護を行う義務があります。わかりやすくいえば、親は未成年の子を養育して、教育を受けさせ、健やかに育てなければならないということです。
未成年の子と親の関係の場合、親から子供を縁を切りたいと思うことは稀だと思いますが、虐待などで未成年の子が親と縁を切りたいと思うことはあるかもしれません。
そのような場合には、親権を失わせる「親権の喪失」や一時的に親権を行わせなくする「親権の停止」を家庭裁判所に求めることができます。
相続関係
相続に関しては、親子は切っても切れない関係にあります。
親が亡くなれば、子は相続人になります。また、子が亡くなったとき、その子に子や孫がいないか全員が相続放棄をしたときは、親が相続人になります。
絶縁状態の相続で一番困るのは、財産や借金の内容が全くわからないことです。相続では、相続人は財産だけでなく借金も引き継ぎます。絶縁状態の親または子の借金まで引き継ぎたいとは誰も思いません。
このような場合、財産があっても何も相続しないということで相続放棄をすることもあります。
親子関係を絶縁する方法
親子関係を絶縁することはできるでしょうか?結論をいうと次のとおりです。
- 実の親子関係を絶縁することはできない
- 例外として特別養子縁組をすると実の親子関係は終了する
- 普通養子の場合は離縁すれば親子関係は終了する
実の親子関係を絶縁することはできない
実の親子関係を絶縁することは、原則としてできません。
戦前の旧民法では、一定の場合に家の籍からはずして勘当するような制度がありましたが、今の民法では勘当という制度はなくなりました。しかし、戸籍を分けることはできます。
戸籍を分けることはできる
親子関係を絶縁することはできませんが、戸籍を分ける手続き(分籍)はあります。
結婚すれば親の戸籍から抜けますが、独身であっても、成人していれば、分籍届をすることによって、現在の親の戸籍を抜けて、自らが筆頭者の新しい戸籍を作ることができます。
分籍によっても法律的に親と縁が切れるわけではありませんが、戸籍が別になることで心理的には親から独立した気持ちになれるかもしれません。
親子関係を絶縁する公正証書はできるか
実の親子関係は絶縁できないとしても、親子が絶縁して今後お互いに関わらないとする公正証書を作成できるでしょうか?
公証人が作成する文書は一定の法的な効力を持つ文書です。もともと実の親子関係は絶縁できないので、法的に意味を持たない文書はおそらく公証人が作成してくれないと思います。公証人にこのような文書の作成を依頼したことも、できるかどうか聞いたこともありませんけどね。
特別養子縁組をすれば実の親子関係は断絶する
実の親子関係が断絶する唯一の例外が、子供を特別養子に出すことです。
特別養子縁組は、養子となる子と実の親との法的な親子関係を解消し、養親と養子との間に実の親子と同じ親子関係を結ぶ制度です。
特別養子縁組をするには、養子になる子が15歳未満のうちに家庭裁判所に特別養子を認めてもらう申し立てをしなければなりません。
特別養子縁組は、実親の虐待があって家庭に戻すことが相当でないような場合に子供の福祉のために利用されることはありますが、親子関係を断絶させる目的で使われることはないでしょう。
養親子関係は解消することができる
実の親子関係は絶縁することはできませんが、養親子関係は離縁すれば親子関係は解消されます。
親子関係が解消されるので、お互いに何の義務も負いませんし、相続関係になることもありません。
親子でお互いに関わらず交流を絶つ
実の親子関係を絶縁できないからといって、関わり続けていなければならないというわけでもありません。
実際に、不仲で、お互いに連絡先も知らずまったく交流がないという親子もいます。引っ越しをして、携帯の話番号も変えてしまい、以後連絡をしなければ、事実上交流を絶つことができます。もっとも、親子なので、住民票や戸籍附票を取って、住所を調べることはできるので、相手次第では居場所を知られてしまうことになります。
また、交流を絶っていたとしても、後に説明する相続では関わってきますので、完全に縁を断てるわけではありません。
親と縁を切るデメリット
これまで見てきたように親子の縁を切ることはできませんが、交流を絶つことで、事実上親子の縁を切ることができます。では、親子の縁を切ったときにデメリットはあるでしょうか?
法律上の親子関係は残る
法律的には親子の縁を切ることができるのは例外的な場合だけで、親子の縁を切ることはできません。つまり法律上の親子関係は残るので、親子の扶養義務や亡くなったときの相続関係が残ります。
扶養義務は、上でも説明したとおり、生活保護で扶養義務照会があっても断ることができます。また、相続については、この後で詳しく説明します。
戻れる実家がなくなる
親子の縁を切ると、戻れる実家が無くなってしまいます。いつでも戻れる場所が無くなるというのは、寂しく感じるかもしれません。
もっとも、縁を切りたいような親のいる家には戻りたいと思わないかもしれませんね。
困ったときに頼れない
親子の関係は、困ったことがあればお互いに頼ることができます。しかし、親子の縁を切ってしまうと、困ったときに頼れなくなってしまいます。
ただ、これも、縁を切ってしまうような親子関係であれば、困ったとしても頼りたいと思わないですね。
絶縁状態の親が亡くなったときの相続
絶縁状態の親が亡くなったら、相続では無関係というわけにはいきません。これは、この記事でこれまで繰り返し述べてきたとおりです。
相続があっても関係したくないから無視しておこうと思う人もいるかもしれませんが、それは危険です。というのも、亡くなった人に借金があった場合は、借金を相続することになります。借金を相続したくないときは、家庭裁判所で相続放棄をしなければなりません。また、相続放棄には期限があり、亡くなったことを知った日から3か月以内にする必要があります。
亡くなった人に財産があって、他にも相続人がいるときは、その相続人と遺産の分け方を話し合う必要もあります。
このように絶縁状態にある人の相続人になると、何もしないでいると借金を相続するリスクや他の相続人と話し合いをしなければならないといった煩わしいことに関わらなければならなくなるのです。
絶縁状に法的意味はない
親子の縁を切るために絶縁状を送っていたとしても、法的には意味がなく、相続では相続関係から免れることはできません。
また、絶縁状態の親子が共同相続人になったときは、遺産の処理を共同で進めなければならなくなります。
結局、絶縁状態の家族と相続で関わりたくなければ、相続放棄をするのが最も手っ取り早く相続関係から抜ける方法です。
生前に相続放棄はできない
法律的に絶縁できなくても、生きているうちに相続放棄してしまえばいいのではないかと思うかもしれませんが、生前に相続放棄はできません。
たまに、親に多額の借金があるから、まだ亡くなっていないけど、今のうちに相続放棄をしておきたいという相談をされることがあります。これには、生前に相続放棄はできないので、亡くなったことを知ってから3か月以内に忘れずに相続放棄をしてくださいとお伝えしてます。
他の相続人と遺産分割協議
絶縁状態の親が亡くなり相続人になったとき、他にも相続人がいれば、その相続人と遺産の分け方を決めたり、共同で相続の手続きをしなければならなくなります。
また、亡くなったのが絶縁状態にある人でなくても、絶縁状態にある身内と共同で相続人になったときは、その絶縁状態にある身内と一緒に相続の手続きをしなければなりません。
どちらの場合も、わずらわしいことですよね。
こういう場合に、何も相続するつもりがないのであれば、相続放棄をすれば相続関係から抜けることができます。
絶縁状態にあると亡くなったことを知るのはかなり後になってから
相続放棄は、相続が開始して相続人になったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。
ところで、絶縁状態にある親の相続の場合、亡くなった日に亡くなったことを知ることは少なく、亡くなってからかなり経ってから知ることが多いです。例えば、役所からの通知であったり、借金の督促状が届いたりして知ることになります。絶縁状態にある親が亡くなったことを知ったのが、亡くなってから3か月以上経っているということも珍しくありません。
このような場合でも、亡くなったことを知った日から3か月以内であれば相続放棄は可能なので、早めに対処しましょう。ただし、亡くなって3か月以上経過しているため、裁判所には経緯をきちんと説明する必要があるので、できれば専門家(司法書士か弁護士)に相談する方が確実に相続放棄できると思います。
相続したくないときは亡くなったことを知った日から3か月以内に相続放棄
絶縁状態にある親の相続をしたくないときは、亡くなったことを知った日から3か月以内に相続放棄をすることで、最初から相続人ではなかったことになり、相続関係から抜けることができます。
もう一度相続放棄のポイントを書くと
- 相続人になったことを知った日から3か月以内
- 家庭裁判所で手続き
忘れずに確実にしましょうね。
勘当状態の子供に相続させたくないとき
何らかの理由で子供を勘当して絶縁状態であっても、親が亡くなると子供には相続権があります。でも、勘当した子には何も相続させたくないですよね。相続させない方法はあるでしょうか?
相続はもめる可能性が高い
勘当状態にある子供にも相続権があります。他にも子供がいるとき、相続分は同じです。
勘当状態にある子供が、関わりたくないから何も要らないといえば揉めることはありませんが、相続財産を受け取れることがわかって「要らない」というでしょうか?
最後まで親の面倒を見た子供と勘当状態にあって何もしなかった子供の相続分が同じだと、最後まで面倒を見た子供が納得するでしょうか?
相続手続きは、相続人全員が印鑑を押さないと進まない手続きも多いです。
全員が納得して印鑑を押すことはとても難しそうだとお分かりいただけると思います。
公正証書遺言を作成する
全員が印鑑を押さずに相続手続きを進める方法として、遺言書を作成しておくことがあります。遺言書は、公正証書で作成しておくのがおすすめです。公正証書は無効になる可能性がほぼ無いからです。
公正証書遺言を作成しておけば、遺言執行者を指定していれば遺言執行者、遺言執行者がいない場合は相続人が遺言に従って相続手続きをすることができます。
ただし、ここでもひとつ問題があります。それは勘当された子供にも遺留分があるということです。遺留分とは、法律上最低限保証された相続分です。勘当された子が遺留分の主張をすると、遺留分に相当する金額を渡さなければなりません。
推定相続人の廃除
勘当した子に遺留分も渡したくないというときは、法律的には「推定相続人の廃除」という方法があります。
相続人の廃除とは、相続人から虐待を受けたり、重大な侮辱を受けたりしたとき、またはその他の著しい非行が相続人にあったときに、家庭裁判所に請求して相続人の地位を奪うことをいいます。
相続人ではないことにしてしまうので、勘当して絶縁状態にある子に相続させないようにするにはこの方法がいいと思うかもしれませんが、実際には推定相続人の廃除が認められることは少ないようです。裁判所はかなり慎重に判断するからです。
まとめ
親子関係を切って絶縁したいと思っても、実の親子の関係を切ることはできません。絶縁状を書いてもそれには法的な意味はありません。また、法的に意味がない文書は公正証書としては作成できないと思われます。
それでも、お互いに連絡を断つことで、実質的に絶縁状態になることはあります。公正証書遺言を作成するなどして、できるだけ絶縁状態の子供が相続手続きに関わらないようにしておくのが良いでしょう。