養育費の取り決めのしかた協議なら公正証書で強制力を持たせて

養育費

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養育費は、離婚をしたからかならずもらえるというわけではなく、取り決めをしないことには払ってもらえないことが大半です。

実際に厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、養育費の取り決めをしている世帯の方が、養育費の取り決めをしていない世帯より実際に養育費を受け取っている割合が高いという結果が出ています。

離婚のときは、つい感情的になってしまい、「養育費なんて必要ない!」と、考えてしまうこともあるようです。実際に厚生労働省の結果報告でも「相手とかかわりたくない」から養育費の取り決めをしていないという方が多くいます。

ですが、養育費は、両親の関係よりも、子どもの利益のために必要となるものです。子どもの進学のときに、お金がないから断念するというような経済問題を避けるためにも、養育費の取り決めはしておきましょう。

この記事では、子どもの父親に養育費を確実に払ってもらうための取り決めのしかたについて解説します。

養育費を取り決める時期

養育費の取り決めは、離婚時にする方が大半です。ですが、離婚時だけでなく離婚した後、時間が経過していても養育費を取り決めることができます。

離婚後でも養育費は請求できる

「離婚してから何年も経っているからもらえないと思っていた」といって諦められる方がいらっしゃいますが、養育費は、子どものための費用です。

子どもを育てるために必要となるので、相手方に対する養育費の請求権は、離婚から時間が経っても相手方に請求できます。ただし、過去の分までさかのぼっての請求はできないので、離婚後早めに養育費の請求をして話をまとめる方が良いでしょう。

養育費はできるだけ離婚時に取り決めましょう

養育費は、離婚後でも請求できますが、できるなら離婚時に決めておきましょう。離婚後は、このようなケースがあり、養育費の取り決めがしづらくなる場合があります。

  • 相手が引っ越してしまう
  • 相手が転職してしまう
  • 相手が話し合いに応じない
  • 相手の所得や環境が変わってしまう

相手と連絡が取れなくなると、法律の専門家に相談をして相手の所在地や勤務先を調べるなど手続きが面倒になります。また、話し合いに応じてもらえない場合は、家庭裁判所で調停を起こすなど、さらなる手間がかかってしまいます。

このような事態を避けるためにも、養育費はできる限り離婚時に決めるようにしましょう。

養育費の取り決め方

養育費の決め方としては、離婚の際に、夫婦の協議(話し合い)で決める方法と、家庭裁判所で決める方法があります。

夫婦間の協議で養育費を決めるときは、口約束だけになってしまうこともあります。しかし、きちんと養育費を払ってもらうためには、書面にしておく方が良いでしょう。

家庭裁判所で養育費を決めれば、裁判所が養育費の内容を強制力のある書面にしてくれます。

夫婦間の協議で離婚するときに養育費を決めるにも、金額をいくらにすれば良いのかわからないかもしれませんね。養育費は、子どもの人数や年齢、親の収入によって一応の目安があります。目安となる養育費の相場を参考にすれば話し合いも進めやすいのではないでしょうか。

夫婦の協議で決める方法

養育費を決める場合、まずは夫婦の二人で話し合う方法が考えられます。この話し合いのことを「協議」といいます。

離婚をするときに夫婦が冷静に話せる場合や、第三者に入ってもらって落ち着いて話し合える場合は、子どものことを一番わかっている夫婦で決めることが望ましいです。

協議で養育費を決める場合、取り決めのしかたは以下のケースが考えられます。

協議離婚のときの養育費の取り決めのしかた

  • 2人の口頭で養育費の合意をする
  • 夫婦の間で養育費の書面を作る
  • 公正証書を作って養育費の取り決めをする

それぞれについて、メリットとデメリットがありますが、養育費の支払いに強制力を持たせるために公正証書を作るのがおすすめです。

2人の口頭で養育費の合意をするケース

先にご紹介した「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、養育費を取り決めている母子世帯のうち文書を作らず口約束のみで合意している割合は26.3%に上ります。

口頭は簡単にでき、法律上も有効であるため、文書を作らず口約束で済ませる世帯が多いようです。

ですが、口約束だけだと、文書のように養育費の合意をした証拠が残りません。その結果、後になって、養育費を「支払う、支払わない」といったトラブルや、養育費の金額についてのトラブルが起こる可能性があります。

トラブルを予防する意味でも、口約束での取り決めは避けるようにしましょう。

夫婦の間で養育費の書面を作るケース

夫婦の間で書面を作る場合、紙とペンがあれば容易に作ることができます。

話し合いで決めた養育費の金額や養育費を支払う期間、2人の名前と住所を書いて押印することで、養育費についての一定の証拠として残せます。

どんな風に文書を作ればいいのか・・・難しいな

そのため、法務省では平成31年2月に「子供の養育に関する合意書作成の手引き」を作り、その中で、養育費合意書のひな形を発表しました。

Chouette

養育費合意書のひな形には、養育費と面会交流について記載欄が用意されていて、埋めていくだけで書類が作れるようになっています。

両親の名前と住所、勤務先のほか、子どもの名前と生年月日、親権者を上段に記載します。

中断には、子どもそれぞれに関して支払い期間と金額、支払い時期についての記入欄が、下段には面会交流の内容と頻度についての記載ができるようになっています。

合意書のひな形の記入例もあるので、記入のしかたが分からない場合は、参考にするといいでしょう。

手引きに関するパンフレットは、平成31年2月以降、離婚届とともに同時に交付されることとなっています。詳しくは、離婚届を受け取る際に、市区町村の窓口に問い合わせましょう。

このように、夫婦の間での養育費についての書面作成は簡単にできるというメリットはありますが、反対にデメリットとして強制的に支払わせる執行力はありません。

MEMO

執行力とは、裁判所に養育費支払いの強制執行を依頼することで、すぐに相手方の給料や銀行口座を差し押さえて養育費を支払わせることができる力のことをいいます。

養育費の支払いに執行力を持たせるには、公証人役場や家庭裁判所など「公の場」で文書を作成しなければなりません。
夫婦間で書面を作る場合、費用はかかりませんが支払われない場合に強制的に支払わせることはできないということを覚えておきましょう。

養育費の取り決めをする公正証書を作るケース

万が一、養育費が支払わなくなったときに、強制的に支払いをさせられるようにしたい場合は、公証役場で公証人に立ち会ってもらい養育費の公正証書を作りましょう。

公正証書は、公証役場で作ることができます。

「公証役場」は聞き慣れないかもしれませんが、役所の一つで全国にあります。お近くの公証役場は、公証役場一覧で探してみてください。

公証役場で公正証書を作るには費用が掛かります。この費用のことを公証人手数料と呼び、「公証人手数料令」という政令に定められています。また、公正証書ができた後、正本と謄本と呼ばれる書類をもらいます。その際に用紙代として5,000円ほどが必要となります。

養育費に関する公正証書を作る場合、証書に記載の金額が大きくなるほど、公証人手数料も高くなります。

公証人手数料を割り出す際にもととなる金額は、離婚のときから支払い終了までの期間の合計額となります。ただし、例えば0歳で離婚したときから成人まで養育費を払うとすると、総額が膨大に高くなってしまいます。そこで、養育費に関する公正証書を作る場合は、最長でも10年を限度として合計額を割り出します。
次の表にある「目的の価額」を養育費の総額とし、右に対応するのが公証人手数料となります。

公証人手数料令第9条別表
目的の価額手数料
100万円以下5000円
100万円を超え200万円以下7000円
200万円を超え500万円以下11000円
500万円を超え1000万円以下17000円
1000万円を超え3000万円以下23000円
3000万円を超え5000万円以下29000円
例えば、子どもが0歳で、毎月3万円を養育費として受け取る場合、10年分の養育費合計額の360万円が目的の価額となり、上の表で見ると手数料は1万1000円となります。

これとは別に、正本・謄本代を発行する通数文、郵送してもらう場合は、送達手数料がそれぞれかかります。

このように、公正証書を作る際には費用がかかってしまいますが、取り決めに反して養育費が支払われなくなったり減額された養育費が振り込まれるようになったりした場合、強制執行の手続きができるメリットがあります。

養育費は、長期的になりますし総額はとても大きくなります。

Chouette

数万円の公正証書作成費用は離婚時には高く感じるかもしれませんが、養育費を支払ってもらえないとき強制執行できる安心を買っておくと思ってみてはいかがでしょうか。

協議離婚をするときは、公正証書を作って養育費の金額や期間を定めておくことをおすすめします。

家庭裁判所の調停手続きで決める方法

夫婦間で話し合いをしても養育費が決まらない場合や話し合いができない場合、家庭裁判所に調停又は審判の申し立てをします。

正式な名前は、「子の監護に関する処分(養育費)調停事件」と呼びますが、離婚調停も同時に行う場合は、「夫婦関係調整調停(離婚)」を申し立てます。また、離婚はしていないけれど、夫婦が別居している場合は、夫婦間での婚姻費用の分担が問題となるので、「婚姻費用の分担調停」を申し立てます。

調停を申し立てる家庭裁判所は、どこでもよいわけではなく、支払いを求める相手方の住所地の家庭裁判所か夫婦で合意して定めた家庭裁判所となります。

調停を申し立てる際には、子ども1人について1,200円分の収入印紙が必要となります。また、話し合いに弁護士を立ち会わせる場合、依頼費がかかるので注意しましょう。

調停手続きでは、先述した「養育費算定表」を用います。ただし、一律に決められるのではなく、日常的に養育費がどれほどかかっているのか、申立人や相手の所得はどれくらいあるのか、子どもの年齢や人数、生活環境はどのようになっているかなど、様々な事情が考慮されます。

家庭裁判所に申し立てをおこなうというと、一方的に養育費の金額が定められてしまうのかな?

という心配があるかもしれませんね。ですが、調停とは、あくまで家庭裁判所での話し合いの場を設けるということです。つまり、裁判所を介して、当事者間で話し合いをして養育費を決めていきます。

話し合いがまとまれば当事者双方の合意のもと調停書類が作られます。

話し合いがまとまらなかった場合は、調停不成立とされて、審判手続きに変わります。

審判手続きでは、家庭裁判所の裁判官が上記のような事情を考慮して、養育費に関する審判をして最終的な金額を決定します。

家庭裁判所で養育費が決まったときは、調停調書や審判書という書類が作られます。調停調書や審判書には強制執行をする力があるので、もし相手方が養育費を支払わなくなったときは、給料や預金口座の差し押さえをすることができます。

まとめ

離婚して養育費を決めても、口約束だけというケースは少なくありません。しかし、万一、相手が養育費を支払わなくなったときは、口約束だけでは支払いを強制することは難しいです。

相手が支払わなくなったときに、強制執行で相手の給料や銀行口座を差し押さえて養育費の支払いをさせられるようにするには、公正証書か裁判所が作った書類が必要です。

協議離婚の場合で、養育費について話し合いがまとまったら、公証役場で公正証書にしてもらいましょう。そうすれば、万一払ってもらえないときには強制執行をして相手の財産や給料を差し押さえて、養育費を払わせることができます。

また、家庭裁判所で調停をすれば、裁判所が調停調書という書類を作ってくれます。この場合は、調停調書を使って相手の給料や財産を差し押さえて、養育費を払わせることができます。

養育費の支払いは長期間続くものです。強制力のある書類を作っておくほうが安心です。