成年後見人の手続きを自分でするときの注意点と必要書類、手続きの流れ

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成年後見人が身内の方に必要になって、司法書士や弁護士に手続きを依頼するとお金もかかりますよね。だったら自分でしようかなと思っていますか?

成年後見人の申立てを家庭裁判所にするとき、専門家に依頼するとすれば司法書士に書類を作成してもらうか弁護士に代理でやってもらうかのどちらかです。どちらに依頼してもお金がかかりそうなイメージなのかもしれませんね。

成年後見人の申し立てを自分でするのもいいと思いますが・・・私は、裁判所提出書類の作成は司法書士の中でも多く扱っている方だと思いますが、それでも成年後見人の申立書類は面倒だなと感じます。

いろんな書類を揃えたり、中身を確認したり、きちんとした書類を作成するのは骨が折れる作業です。

それでも自分で成年後見人の手続きをしたい方のために、この記事で成年後見人の申立てのやり方を説明します。成年後見には法定後見と任意後見がありますが、この記事で説明するのは、家庭裁判所に申し立てる法定後見です。

法定後見の種類

法定後見制度は、本人の判断能力の程度によって、次の3種類があります。どの類型の申立てをするのかは医師の診断によります。

  • 後見
  • 保佐
  • 補助

なお、申立全体の約8割が後見で、保佐が16%程度で、補助は圧倒的に少ないです。

後見とは

認知症などの精神上の障害によって判断能力を欠く常況にある者を保護する制度です。支援を受けても契約内容などを理解し判断することができない状態にある方のためのものです。

申立てがあると家庭裁判所は本人のために成年後見人を選任します。成年後見人は、本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって本人のために行います。

保護が受けられていな方がたくさんいる?

先程、成年後見関係の申立ての約8割が後見だと言いました。後見は判断能力を欠く「常況」にある方の制度です。そのような常況に至るまでには、やや判断能力を欠いた状態のときもあるわけです。本来でしたら、やや判断能力を欠いたときから法的な保護が必要にもかかわらず、判断能力を欠く常況になるまで法的な保護を受けられないでいる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

保佐とは

保佐とは、認知症などの精神上の障害によって判断能力が特に不十分な方を保護する制度です。支援を受けなければ契約等の内容を理解し判断することができない方のためのものです。

簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。

家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、さらに、保佐人に対して本人が申し立てた特定の法律行為について代理権を与えることができます。

補助とは

補助とは、認知症など精神上の障害によって判断能力が不十分な方を保護する制度です。支援を受けなければ契約等の内容を理解し判断することが難しい場合がある方のための制度です。

大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。

家庭裁判所は本人のために補助人を選任し、補助人には本人が申し立てた特定の法律行為について代理権または同意権(取消権)を与えることができます。

成年後見人の申し立てができる人

法律上、成年後見人の申立てができる人は次のとおりです。

  • 本人(後見開始の審判を受ける人)
  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 未成年後見人
  • 未成年後見監督人
  • 保佐人
  • 保佐監督人
  • 補助人
  • 補助監督人
  • 検察官

この記事を読んでいる成年後見人を自分で申し立てたいと思っている方は、おそらく本人のご家族の方だと思います。

本人の配偶者、四親等内の親族であれば申立てをすることができます。

ちなみに四親等内とは次のとおりです。

親子など直系であれば、本人からみて四世代までです。子や孫であれば問題なく申立てできます。傍系であれば、兄弟姉妹、おじおば甥姪、いとこまでは四親等内に含まれます。

成年後見の利用者は誰か

ところで、成年後見制度の利用者は誰でしょうか?

ご家族が成年後見人の申立てをすると、ご家族が成年後見制度の利用者だと思うかもしれません。ですが、成年後見制度は、判断能力が衰えたご本人を保護するための制度です。

成年後見制度の利用者は、判断能力が衰えたご本人なのです。

成年後見人の制度を利用していると、本人とご家族の利害が対立することがあります。そのような場合、成年後見人はあくまでもご本人にとって利益になるように行動します。つまり、利害が対立しているご家族にとっては、好ましくない行動を取ることもあるわけです。

成年後見人の申立てをする前に、このことは理解しておいてくださいね。

成年後見人申立の必要書類を集める

成年後見人の申立てに必要な書類はたくさんあります。羅列すると多すぎて何がなんだかわからなくなりそうですが、分類すると必要な書類はわかりやすくなります。

本人の状況がわかる書類
  • 診断書、鑑定についてのおたずね
  • 登記されていないことの証明書
  • 本人の健康状態に関する資料(介護保険被保険者証、精神障害者手帳、身体障害者手帳など)

診断書は、成年後見用の診断書で裁判所用の書式があるので、それを入手して鑑定についてのおたずねと一緒に書いてもらいます。

登記されていないことの証明書は、成年後見人の登記がされていないことの証明書で法務局に請求します。窓口に行く場合は、東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課です。法務局の支局・出張所では扱っていません。窓口が遠い場合は、郵送で請求することができます。

登記されていないことの証明申請について:東京法務局

本人の身分関係がわかる書類
  • 本人・申立人の戸籍謄本
  • 本人・後見人候補者の住民票

本人と申立人の関係がわかる戸籍謄本を提出します。また、本人に関しては推定相続人がわかる程度の戸籍を揃えます。

本人の財産や負債がわかる書類
  • 預貯金通帳
  • 有価証券に関する資料
  • 保険に関する資料(保険証券等)
  • 不動産の登記事項証明書
  • 固定資産税評価証明書か課税通知書
  • 負債に関する資料

本人の財産や負債関係の資料を揃えます。何を揃えるかは人によって異なりますが、申立書に財産目録を付けるので、財産目録に記載した財産がわかる書類を揃えます。

本人の生活の収支がわかる書類
  • 収入に関する資料(年金額決定通知書等)
  • 水道光熱費、家賃、保険料に関する資料
  • 医療費、施設費に関する資料
  • 税金、社会保険料に関する資料

本人の収支がわかる資料は、申立書に収支予定表を付けるので、その収支の根拠になる資料を揃えます。

法定後見人の申立てから後見開始までの流れ

裁判所の申立書類を入手

まずは、裁判所の成年後見人申立の書式を入手します。裁判所によって多少書式が異なりますし、書式も少しずつ変更されているので、申立てをする裁判所の最新の申立書を入手してください。ちなみに東京と大阪の書式は次からダウンロードできます。

東京家庭裁判所:申立てをお考えの方へ(成年後見・保佐・補助)

大阪家庭裁判所:書式ダウンロード(後見等開始・選任申立書式)

診断書の取得

裁判所の書式を入手したら、その中にある成年後見用の診断書を医師に書いてもらいます。医師の診断結果に応じて、後見、保佐、補助のどれを申し立てるかが決まります。

必要書類の収集

必要書類を揃えて、A4サイズでコピーを取ります。ときどき依頼者の方がコピーを取って書類を持ってくると、全部入っていなかったり、端が切れていたりします。きちんと書類のコピーが取れているか確認してください。

申立書類の作成

申立書や財産目録、収支予定表を作成します。財産目録や収支予定表は、揃えた財産関係の資料や収支関係の資料を見ながら正確に記載します。

家庭裁判所への申立て

書類ができたら、管轄の家庭裁判所に申立書類を提出します。

申立書に不備があると、裁判所から訂正や追加書類提出の指示がありますので、裁判所の指示に従って訂正、追加をします。

家裁の調査官との面談

書類がOKになれば、裁判所の調査官と申立人が面談をします。本人と面談できる場合には、本人とも面談があります。

鑑定

裁判の判断によって、本人の精神状態の鑑定がされることがあります。鑑定する場合には鑑定費用として5万円から10万円程度を裁判所に納めます。

後見開始の審判

後見人を選任することが必要と認められれば、後見開始の審判がされて、後見人が選任されます。後見開始の審判書を後見人が受け取ってから2週間経過すると確定し、正式に後見がスタートします。

成年後見人はどのように選ばれる

家庭裁判所は、後見開始の申立てがあるとそれを認めるか却下するかを審理し、認める場合には、誰を成年後見人にするかについても審理して決定します。

候補者を立てることができる

家庭裁判所に提出する後見開始申立書には後見人候補者の記入欄があり、この欄に誰が成年後見人として選ばれるべきかを記入して後見人の候補者を立てることができます。

後見人候補者は親族でも親族以外の人でも構いませんが、親族以外の人の場合は、司法書士、弁護士、社会福祉士等の専門職でなければよほどの理由がない限り認められないでしょう。

候補者が成年後見人に選ばれるとは限らない

成年後見人の候補者が立てられた場合でも、その人が成年後見人として選任されるとは限りません。

家庭裁判所は申立書に記載された候補者が成年後見人としてふさわしいかどうかを判断し、候補者ではなく、候補者以外の人(弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職など)を後見人に選任することがあります。

特に、親族間に意見の対立がある場合や流動資産の額や種類が多い場合には、親族ではなく専門職が成年後見人に選任される可能性が高いでしょう。

なお、成年後見人が選任されると、その成年後見人は嫌だから他の成年後見人にして欲しいというような不服の申立てはできません。選任された成年後見人が以後後見人として本人のために後見事務を行なうことになります。

では、家族が成年後見人になろうとしていたのに家族ではなくて専門職が成年後見人に選ばれそうになったとき、成年後見人の申し立てを取り下げることができるでしょうか?

成年後見人選任申立ての取り下げ

成年後見制度は判断能力が衰えた本人を保護するための制度で、自由に取り下げを認めると本人の保護ができなくなる可能性があります。

そこで、成年後見人選任申立てを取り下げるには家庭裁判所の許可が必要とされています。そして、取り下げをする際には、取り下げの理由を明らかにしてしなければなりません。

成年後見人の申立ての取り下げがあったときは、家庭裁判所は本人保護の必要性や取り下げの理由・動機を総合的に判断して取り下げを許可するかどうかを決めることになります。

したがって、取り下げをしても必ず取り下げが認められるわけではなく、そのまま成年後見人選任の手続きが進められることもあります。

ご家族の方がご自身が成年後見人になるつもりで申立てをして、専門家が成年後見人に選任されそうなのが気に入らなくて取り下げをしようとする場合、取り下げが許可される可能性は低いでしょう。

まとめ

成年後見人の手続きを自分でされる場合、裁判所手続きになれていないと大変だと思います。

あなた自身を成年後見人の候補者として申立てをする場合、裁判所はあなたが作った書類のでき具合を、あなたが後見人ができそうかどうかの判断材料の一つにするかもしれません。つまり、不備が多い書類だと後見人として事務処理を行う能力に欠けると判断されるかもしれませんし、完璧な書類であれば後見人としてふさわしいと判断されるかもしれません。

ですので、細心の注意を払って書類を作ってください。

また、成年後見人として誰を選任するかは裁判所が決めることですし、専門家が成年後見人に選任されそうになったからといって途中で取下げることは原則としてできません。成年後見の制度を十分に理解して申立てをするようにしてください。