母子家庭の子どもが大学に進学を希望しても、シングルマザーで爪に火を灯すような生活をしていると、子どもを大学に進学させることは経済的に大変なことでした。
そのため、経済的な理由で大学への進学をあきらめていたことがこれまでは多かったかもしれません。また、大学に進学するために多額の奨学金を借りたために、卒業後に奨学金の負担に苦しんでいるということも珍しくありませんでした。
しかし、2020年(令和2年)から高等教育無償化(大学等の授業料減免制度)が始まり、母子家庭の子どもでも学費の負担なく大学に進学ができるようになりました。
この制度を利用できれば、子どもの大学進学の夢の実現を応援することができますね。
ここでは、大学等の授業料の負担がゼロになる高等教育の無償化制度と、それでも教育資金が不足するときの公的支援策について説明します。
もし、あなたが新型コロナウイルスの影響で家計が大きな影響を受け、大学生の学費が心配でこの記事を読まれている場合、新型コロナウイルスの支援制度をまとめた記事も参考にしてください。また、新型コロナウイルスの影響で家計が大きな影響を受けた場合、この記事にある給付型奨学金を家計急変により申請できる可能性があります。家計急変による給付型奨学金の申請は、いつでも受け付けています。
この記事の内容
大学無償化とは
大学無償化を含む高等教育の就学支援制度は、令和2年から始まった国の制度です。
学びたい気持ちを応援する制度で、家庭の経済状況に関わらず、大学等に進学できるチャンスを確保できるように授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金を給付し、大学無償化を実現しました。
大学無償化の対象になる学校
高等教育無償化制度の対象になる学校は大学に限られません。次の学校が対象になっています。
- 大学
- 短期大学
- 高等専門学校
- 専門学校
高校については、まだ完全な無償化にはなっていません。
大学無償化の内容
大学無償化は次の二つの制度が合わさったものです。
- 大学の入学金・授業料の免除または減額
- 給付型奨学金の支給
大学無償化の制度を利用すると、無利子の貸与型奨学金との併用に制限がかかります。しかし、ほとんどの場合、授業料の減免と給付型奨学金の支給により全体としては今までより大きな支援を受けることができます。
授業料等減免により、入学金と授業料がそれぞれ免除または減額されます。学校の種類や国公立か私立かにより、減免額の上限が変わってきます。
給付型奨学金の支給は、学校生活を送るのに必要な学生生活費等を賄うために支給されるものです。これは学校の種類、国公立か私立かという区分に加えて、自宅通学が自宅外通学かによっても支給額が異なります。
この奨学金は、卒業後に返還する「貸与型」ではなく、返還の必要がない「給付型」ですので、安心して支給を受けることができますね。
母子家庭で大学無償化利用の条件
- 家計基準
- 資産基準
- 大学の要件
- 学力基準
大学無償化になる家計の条件
大学無償化制度の対象になるのは、住民税非課税世帯の学生およびそれに準ずる世帯の学生です。母子家庭の場合、所得が125万円以下で住民税が非課税になります。
大学無償化制度を利用できる母子家庭の年収の額の目安は次の表のとおりです。ただし、これは親権者が母の母子家庭の場合の数字で、親権者が父の場合は後で説明します。
住民税非課税世帯 | 準ずる世帯 | ||
支援額満額 | 支援額3分の2 | 支援額3分の1 | |
子1人(本人) | 〜約210万円 | 〜約300万円 | 〜約370万円 |
子2人(本人・高校生) | 〜約270万円 | 〜約360万円 | 〜約430万円 |
子3人(本人・高校生・中学生) | 〜約270万円 | 〜約360万円 | 〜約430万円 |
子3人(本人・大学生・高校生) | 〜約350万円 | 〜約450万円 | 〜約510万円 |
子どもが一人の場合、年収にすると目安は210万円以下で住民税が非課税でとなり、前年の給料の合計が210万円以下であれば、大学無償化制度の対象になります。また、これを超えていても、年収が300万円以下であれば3分の2、年収が370万円以下であれば3分の1が授業料等免除になります。
大学無償化をシミュレーションしてみる進学資金シミュレーター
大学無償化の対象になる家計化どうかは、学生本人と生計維持者(母子家庭の場合「母」)の合計額で基準を満たすかどうか判断されます。
学生本人の所得が住民税を課税されているような場合には、世帯の所得の判定に影響を与えることがあります。
母子家庭で親権者が母の場合は、母の収入を上の表に当てはめて大学無償化が利用できるかどうか判断しますが、親権者が父で子どもが母と生活している母子家庭の場合は異なってきます。
親権者が父で子どもが母と生活している場合には、父母2人が生計維持者となり、父母2人の所得で大学無償化が利用できるかどうかが判断されます。これは、親権者は未成年の子どもに対して身分上・財産上の監督保護を行う義務があるとされているためです。
母が養育費を受け取っていても、父が親権者でなければ、父は生計維持者とはならず、母のみの収入で大学無償化を利用できるかどうか判断されます。
貸与型奨学金(卒業後に返済するタイプの奨学金)を申請する際には、養育費の額を申告しなければなりません。しかし、大学無償化の給付奨学金の申請では養育費の額の申告は不要なので、養育費を受け取っていても収入には含まれません。
生計維持者についてもっと詳しく生計維持者について | 日本学生支援機構
資産要件
母子家庭の場合、子ども本人と母の資産の合計が1250万円未満であることが大学無償化制度利用の要件です。
親権者が父で母と生活している場合には、先にも説明したように生計維持者が2名となり、このときは資産は子ども本人と父母の資産を合計して2000万円未満であることが必要です。
なお、ここで資産とは、現金、預貯金、株、投資信託のことで、住宅は含みません。
大学の要件:すべての大学が対象とは限らない
大学無償化の対象になるのは、大学・短期大学・高等専門学校・専門学校ですが、全ての学校が免除の対象になるとは限りません。
国が授業料等の免除の対象になる学校の条件を決めて、その条件をクリアしているかどうかを国または自治体が確認します。そして、確認の結果、条件をクリアしていることが認められた学校だけが、大学無償化の対象になります。
学生本人の要件:学力基準
大学無償化には、学生本人の要件もあります。
高校の成績はそんなに良くなくても、学生本人のレポートや面接によって学習意欲や進学目的を確認して判断することになっています。大学進学時点では、できるだけ授業料免除を認めて進学しやすくするのではないかと思います。
ただし、大学進学後は、その学習状況に厳しい条件を付けて、単位をたくさん落とすなど成績が悪い場合には、授業料免除を打ち切られることがあります。
ですので、大学進学後は、しっかりと勉強することが大事です。
外国籍の場合の利用条件
大学無償化制度は、日本国籍であればもちろん利用できるのですが、外国籍であっても一定の在留資格の方は利用することができます。
- 特別永住者
- 永住者
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者のうち、将来永住する意思があると認められたもの
母子家庭の大学無償化の申請手続き
大学無償化の申請は、進学前に申し込む「予約採用」と進学後に申し込む「在学採用」とあります。
進学前に申し込む予約採用手続き
高校から必要書類を受け取り、奨学金の種類・提出期限等を確認します。
インターネットで申込情報を入力し、日本学生支援機構にマイナンバーを郵送する。
その後必要書類を高等学校等に提出します。
採用候補者の決定。
高校を通じて「採用候補者決定通知」が交付される。
進学先の大学に「採用候補者決定通知」を提出して、入学金と授業料の減免の申請をする。
日本学生支援機構にインターネットで「進学届」を提出する。
毎年、家計と学業成績が要件を満たしているかの適格認定があります。
在籍報告と給付奨学金継続願を毎年提出します。
高校3年生のうちに申し込みができなかった場合には、大学進学後に「在学採用」という方法の大学無償化の申し込みができます。ただし、進学後に申し込みをすると奨学金の支給時期が遅くなるので、忘れずに高校3年生のうちに申し込みするのがいいでしょう。
予約採用で不採用になったときも、この後の在学採用で再度申し込むことができます。
大学進学後に申し込む在学採用の手続き
毎年春と秋に募集があります。学校に募集時期を確認して忘れないようにしましょう。
申込書類を学校に提出し、インターネットから申し込みを入力し、マイナンバーを日本学生支援機構に郵送します。
授業料減免の申請時期を学校に確認し、授業料の減免の申請も併せてします。
学校を通じて選考結果が通知されます。
毎年、家計と学業成績が要件を満たしているかの適格認定があります。
在籍報告と給付奨学金継続願を毎年提出します。
母子家庭の大学無償化の支給額
大学無償化で免除される授業料等の金額
免除されるのは、大学等の入学金と授業料です。
国公立 | 私立 | |||
入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 | |
大学 | 約28万円 | 約54万円 | 26万円 | 70万円 |
短期大学 | 約17万円 | 約39万円 | 25万円 | 62万円 |
高等専門学校 | 約8万円 | 約23万円 | 13万円 | 70万円 |
専門学校 | 約7万円 | 約17万円 | 16万円 | 59万円 |
国立大学の免除額の上限は、文部科学省で国立大学の授業料の標準額を決めていて、その標準額を上限として免除されます。
ただ、国立大学でも大学によっては標準額より高い授業料にしているところもあります。このような大学では上限額までしか免除されないのか、それともの授業料全額が免除になるのかは、その大学が決めることになっています。
私立大学の入学金については、私立大学の入学金の平均額を上限額としています。
また、私立大学の授業料については、私立大学の授業料平均と国立大学の授業料の標準額の差額の2分の1を、国立大学の授業料の標準額に加算した額になっています。そのため、私立大学の授業料は、完全に無償化されるわけではありません。
私立大学の授業料は大学によって違います。
文系 | 理系 | |
早稲田大学 | 約96万円 | 約144万円 |
慶応大学 | 約87万円 | 約126万円 |
上智大学 | 約126万円 | 約180万円 |
私立大学の授業料は大学や学部によってかなり違うことがわかると思います。
ただ、どの私立大学に行っても、免除される授業料の上限額だけではまだ足りません。
返済不要の給付型奨学金
私立大学の授業料免除額の上限を実際の私立大学の授業料学を比べると、私立大学は授業料免除額だけでは足りません。
また、大学が施設設備費や実習費を別に徴収している場合、この施設設備費や実習費は免除されないので、これもどうにかして用意する必要があります。
さらに、大学は教科書が高く年間数万円かかるので、教科書代も必要です。
このように、私立大学に行く場合は授業料免除だけでは授業料をまかなえませんし、国立大学でも実習費が必要だったりすると授業料免除ではやはり足りません。そのうえ教科書代もかかりますしね。
このようなときのために、授業料免除の無償化制度だけではなくて、返済不要の給付型奨学金制度もできました。
奨学金というと後で返済しないとけないというイメージかもしれませんが、給付型奨学金は返済しなくてもいい奨学金です。
受け取れる奨学金の年額は次の表のとおりです。下の表の金額は、大学・短期大学・専門学校の場合の金額で、高等専門学校の場合は実態に応じて大学生の5割から7割が支給されます。
自宅通学(年額) | 自宅外通学(年額) | |
国公立 | 約35万円 | 約80万円 |
私立 | 約46万円 | 約91万円 |
授業料の減免と給付型奨学金で大学進学に十分足りる?
現実的には、個人的な経験も含めて考えると、次のような感じだと思います。
国立大学に自宅から通う場合は、授業料免除と給付型奨学金で大学に通う費用はまかなえそうです。これは文系とか理系とか関係なく、医学部であってもです。国立大学は文系・理系・医学部も授業料は一緒ですからね。
私立大学は文系学部に自宅から通学する場合は、授業料免除と給付型奨学金でほぼまかなえると思います。
ただし、私立理系では、自宅から通学する場合でも授業料免除と給付型奨学金では少し不足すると思います。
自宅外で一人暮らしする場合には、授業料免除と給付型奨学金では国立でも私立でも厳しいです。生活費が足りません。
しかたがって、母子家庭から大学に進学する場合には、自宅から通える地元の大学にするのが負担が無いでしょう。
しかし、どうしても志望する学校や学部に自宅から通えないとき、授業料免除と給付型奨学金だけでは厳しいので、他の奨学金も検討することになりそうです。
実は給付型奨学金は他にもあります。下記の本でまとめて紹介されているので探してみてもいいかもしれません。
まとめ
以前と違い、母子家庭からでも大学に通える制度が整ってきました。
私立大学に通う場合には十分とは言えないかもしれませんが、それでも母子家庭の子どもの夢を叶えるために大学に進学する助けにはなるでしょう。
子どもが大学進学の夢をあきらめないで済むように、よく話し合って最善の道を選んでください。