「相続を放棄しました。」
「財産は放棄しました。」
相続の相談のときに、よく聞く言葉です。
この何気ない一言から受けるイメージほど、司法書士と一般の方とでその違いが大きいものは無いかもしれません。
ただし、受け取る意味合いが違っても、問題がないケースがほとんどでしょう。
しかし、亡くなった方に負債が多くある場合、そうともいえません。
この記事の内容
相続放棄ってどういうこと?
法律的には、「相続放棄」は一定期間内に管轄の家庭裁判所に相続放棄の手続を行うことをいいます。
そして、裁判所で相続放棄が受理されれば、最初から相続人ではなかったことになります。
その結果、亡くなった方の財産はもちろんのこと、亡くなった方の借金も相続することはありません。
司法書士が「相続放棄」と聞くと、まずこちらの正規の相続放棄をイメージします。
一方、冒頭のようなセリフに含まれている意味は、
「相続人同士で話し合いをして、何も財産を相続しないことになりました。」
というものであることが多いです。
要は、遺産分割をして相続分をゼロにしたということになります。
亡くなった方に負債が無い場合は、円満にそのような話がまとまっていれば何も問題はありません。
しかし、亡くなった方に借金がある場合、そうは言えません。
たとえ「財産を引き継ぐ人が借金を支払う」と相続人同士で話ができていても、それを債権者には主張できません。
借金は、相続人が法定相続分で相続します。
どういうことか説明しますね。
例えば、Aさんが亡くなって、相続人が妻のBさんと、子供のCさん、Dさんとします。
話し合いの結果、Bさん財産を全部相続することになりました。
念のため確認しておくと、法定相続分は、Bさんが2分の1、CさんとDさんがそれぞれ4分の1ずつです。
Aさんが亡くなったときに1000万円の借金があったとすると、どうなるでしょう?
この借金は、法定相続分の割合でBさんが500万円、CさんとDさんがそれぞれ250万円相続します。
このとき「Bさんが全部相続することになったからBさんに全部請求してよ。」とCさんDさんが債権者に言っても、それは債権者には通用しません。
債権者と話し合いができて、Bさんが借金を全部引き受けることになればそれで一件落着になります。
しかし、債権者がそれに応じない場合、困りますね。
この場合、CさんとDさんが借金を相続したくなければ、家庭裁判所で相続放棄をする必要があります。
このように「相続を放棄した」と簡単に言ってもその意味するところが全く違ってくることがあるのです。
相続放棄の手続
正規の「相続放棄」の手続きは、家庭裁判所でします。
相続放棄には3か月以内の期限があります。
いつから3か月かというと「自分が相続人になったことを知った日から」です。
夫婦や親子であれば、普通は亡くなった日に自分が相続人になったことを知ったと言えますから亡くなった日から3か月以内に相続放棄をします。
亡くなって、お葬式や四十九日の法要を済ませると3か月の期限まであと1か月ちょっとしかありません。
長いようで短いですね。
必要な書類は、
- 亡くなった方の戸籍
- 亡くなった方の住民票の除票
- 相続放棄をする方の戸籍
- 相続放棄をする方の住民票
です。
戸籍で、相続放棄をする方が亡くなった方の相続人であることが分かるようにします。
相続放棄をする裁判所は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
どこでもいいわけではありません。
裁判所に提出すると、裁判所から照会が来たり、来なかったりで問題がなければ相続放棄が受理されます。
受理されれば、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」という書類が届いて終わりです。
まとめ
「相続は放棄しました。」と言っても、正規の相続放棄の意味合いに加えて単に財産を引き継がないことにしたという意味合いもあります。
借金がないときはどちらでも問題ありませんが、借金があるときは注意したほうが良さそうです。
ただし、家庭裁判所でする正規の相続放棄は、借金だけでなく財産も一切引き継がないということ。
財産の方が多くても、相続放棄をするとそれも引き継げません。
相続放棄をするときには、あわててしないで、財産と借金の額をじっくり見極めてからにしてくださいね。